前から気になっていたものに、ファーストフード店等のマニュアル質問攻めがある。注文した後で必ず繰り返し、その後で「~でよろしかったでしょうか」と訊いてくる。それを聞いているとイライラするのは私だけだろうか。安さの秘密はコレなのだと我慢し、「はい、はい」と答えるのには慣れているつもりだったが、先日はついに許容ラインを通り越してしまった。
その店は、私の勤務先の近くにある。朝早くから営業しており、通勤前にスケジュールをチェックしたり仕事の段取りを考えたりするのに、2年位前からほとんど毎朝利用している。
この店の良いのは、コーヒー代がファーストフード店並みに安いのに、セルフサービスではないところだ。普通の喫茶店と同様、客が席に座ると従業員が注文を取りに来てくれ、コーヒー一杯でもちゃんとカップ&ソーサーで運んできてくれる。支払いも後だ。店内が10坪もない規模だからこそできるのかもしれないが、従業員の質も良く、マニュアル接客度が他の店より低いところもポイントが高い・・・と、ついこの間までそう思っていた。
3週間ほど前、その店に新人が入った。真面目そうな若い女の子で、その真面目さ故にギチギチのマニュアル接客である。
逐一マニュアルを読みながらのごとき問いかけに「まあ、新人さんだから仕方ない」と我慢していたが、他の子たちのように臨機応変ができず、日を追ってますますひどくなっていくのである。
その子に接客されるのは既に5~6回。私は毎回同じ時間に行くので、私の情報は大体刷り込み済みだと期待していた。つまり、私がいつもコーヒーかアイスコーヒーしか頼まないことぐらいは覚えてくれているのではないかということだ。というのも、私は以前喫茶店を経営していたことがあり、お店の人というのはお客さんを意外なほどちゃんと見ていることを知っているからである。
その朝、私は読みたい本があった。彼女が発するマニュアル質問を最低限にするために、懇切丁寧に注文するよう心がけた。
「ホットコーヒーを1つお願いします」
これほど完璧な注文の仕方があるだろうか。しかし、敵は一枚上手だった。
「ホットコーヒー、お一つでよろしかったでしょうか」
「はい」。私は多分、憮然と答えた。
彼女はさらに畳み掛ける。「以上でよろしかったでしょうか」
かろうじて私は答える。「はい・・・」
・・・さて、彼女がコーヒーを運んできた。
カップと伝票を置きながら、「コーヒー、お待たせいたしました」
私は内心、「これで質問攻めから解放される!」と期待していた。繰り返すが、読みたい本があった。それなのに・・・。彼女は言った。
「ご注文の品、以上でお揃いでしょうか」
私の頭の中で何かがブツリと音を立てた。「はい」と答える代わりにテーブルをひっくり返しそうになったが、括りつけのカウンターだったためにそれはできなかった。血圧が急上昇するのが自分でも分かった。
そんな私に、完璧な仕事をした後の満足感を顔に浮かべて、彼女は止めを刺した。
「ごゆっくりどうぞ」
私は本を1ページも開かず、店を出た。

