前々回のこの欄に、"病気のデパート"と化した我が家の10歳になる飼い犬のことを書いた。
ガンの予後に不安を抱えたまま、2つの病を併発。一時は4種類もの薬のほか、免疫力を上げるための栄養補助食品を毎日与えており、これが大変な苦痛だった。
躾のなっていない犬は、何せ大人しく薬を飲んでくれない。やむを得ず、大好物のチーズなどに薄く包み嚥下させるしかなかった。ところが犬は要らぬところで賢さと猜疑心を発揮、いつしかチーズにもそっぽを向くようになった。仕方なくチーズに替わるもので騙し騙し投薬していたが、そのうちにサツマイモやアスパラなど一部の野菜のほかは、食べ物自体をほとんど受け付けなくなった。
スーパーの安売りではあるが、ご馳走のはずの豚肉や牛肉を鼻先にぶら下げても「怪しい」と言わんばかりの上目づかいでこちらを窺い、結局は「フンッ」と一蹴する有様である。水でさえ、臭いを十分に確認してから恐る恐る飲むようになったのには驚いた。
唯一、薬入りでもガツガツと食べたものがあった。それは某焼き鳥店の鶏肉である。
この店は創業40年ほどで、大量生産や添加物と縁がない老夫婦二人で商っている。先日犬の話をすると、以前にも犬を飼っている別のお客さんに同じことを言われたそうだ。そこで気づいたのだが、もしかしたら、犬は食べ物の中にある添加物の臭いが気になっているのではあるまいか。
餌に尋常ならざる成分が混入していれば、人間よりはるかに高い嗅覚を持つ犬なら、それを敏感に嗅ぎ取ることは不思議ではない。薬の多用が、自然で安全なものと本来食べ物にあってはならぬものとを判断する、野生の本能を取り戻させたのかもしれない。
加工品はもちろん、化学肥料を使って育てられた米や野菜、輸入飼料で育った畜肉、養殖魚も含め、私たちの食べ物は添加物まみれだ。いくら国が認めた種類であっても、多用すれば健康に支障を来たして当然だと思う。
アレルギーや味覚障害などに、食品添加物の過剰摂取が影響を与えていることは以前から問題になっている。
先日あるテレビ番組で女優の奈美悦子さんが、医師にもサジを投げられた奇病を何年も患っていたことを告白していた。病をきっかけに、出来合いのものばかりで不規則だった食生活を有機食品中心の手作りに切り替えたところ、いつの間にか症状が改善していたという。
添加物がなければ現代の食生活は成り立っていかないから、すべての添加物をカットすることは無理だ。けれど、人間の体を作るのは食べ物なのである。それなのに、私たちは大量生産と低価格、便利と引き換えに実に大きな代償を払いすぎてはいないだろうか。
我が家の犬は少しずつ回復し、薬の量も種類も減ったせいで食欲も取り戻してきた。しかし、市販のおやつ類は一部を除きやはり食べない。先日コンビニでアイスクリームを買ったのだが、変な味がすると思いパッケージをよく見たら、人工甘味料を使っていた。試しにスプーンの先にほんの少し載せて犬に差し出すと、アイスクリームが好きなこの犬が横を向いてしまった。
犬の状態が本当に添加物のせいかどうかは定かではない。しかし、もしそうだとしたら、私たち人間もこうした能力を取り戻したいと思う。それはもはや贅沢な願いかもしれないが。

