今年3月末に米カリフォルニアで人・人感染が確認された新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)が、世界的規模で感染の拡大を続けている。
日本では、「終息に向かいつつある」という見方がある一方、九州の小中学校で集団感染が起き、首都圏でも感染が広がっている。
中でも気温の低い北海道では、夏場にかけて高校生の集団感染の恐れも懸念され、油断は禁物。折りしも新型インフルの感染者が国内で確認されて1カ月、元小樽市保健所長で新型インフルエンザ・コンサルタントの外岡立人さん(64)に、「今後」を聞いた。
--今回の新型インフルエンザの毒性は季節性のインフルエンザと同程度といいますが、過熱したマスコミ報道で、感染した高校生の学校に誹謗・中傷メールが届いたり、マスクが店頭から消えるなど混乱を引き起こしました。
外岡 WHO(世界保健機構)のパンデミック警戒レベルは、致死率60%とされる、H5N1型鳥インフルエンザを想定したもの。しかし、待ち構えていた新型は病原性も弱く、季節性のインフルエンザと大差なかった。豚インフルの感染者の多くは高校生を中心としたハイティーンで、感染者が出ても家庭内感染がほとんど見られないのが特徴です。
CDC(米国疾病管理予防センター)が感染者の血液を分析した結果、1957年より前に生まれた人の一部には、今回の豚インフルに似たウイルスに抗体をもっているのではないかということが分かりました。家庭内感染のないインフルエンザは新型とは言えない。すでに欧米では季節性のインフルエンザと同じ扱いに切り替えています。
日本は、感染症法に基づく新型インフルエンザという括りで行動したから、今回のような混乱を招いた。豚インフルを新型という定義から外すべきだと考えている。
--日本では、今のところ死者はおらず、国に対し終息宣言を求める動きもあります。
外岡 世界レベルではまだ感染が拡大しています。特にチリやオーストラリアといった南米で感染者が急増し、北半球でも増えている。日本の場合も確認されているのは氷山の一角で、まだ相当数の感染者がいると思います。CDC(米国疾病管理予防センター)は、夏場にかけて流行が続くと見ており、気温の低い北海道は今後、高校生を中心に集団感染が見られるかもしれない。
さらに、病原性を増したウイルスが、秋冬に拡大する危険性もある。世界的な規模での監視が必要となってきます。
--保健所長時代から、ご自身のホームページ「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報」で、新型インフルエンザに関する国内外の情報を収集、分析して掲載していらっしゃいますね。
外岡 海外のマスコミに比べ、日本のマスコミは新型インフルエンザなど感染症に対して関心が薄い。今回の豚インフルについても、海外や国内の情報は詳しく報道されていない。毎朝、3時に起きて情報を更新する作業ははっきり言って辛い。
しかし、専門家だけでなく、新型インフルエンザに関心を持つ主婦や学生が熱心に見てくれている。混乱に陥らないためにも正確な情報が必要です。
--今回は大騒ぎした割りには、今後の国や自治体の対策がはっきり見えていません。
外岡 国の新型インフルエンザ行動計画は鳥インフルに特化したものだ。行動計画は一つの柱にしか過ぎず、新型インフルエンザの特性を見極めた上で、柔軟な対応が求められます。豚インフルは、季節性インフルエンザと同程度だから、感染していても即入院させる必要はないでしょう。
慢性疾患などハイリスクの人を除き、自宅療養で十分です。私は病原性の危険度に合わせた行動計画を作るべきだと、1年前から提唱してきました。
--日本は公衆衛生の面で後進国だと指摘されています。個人レベルでの感染予防対策を身につけることも大事ですね。
外岡 新型インフルエンザの感染拡大を防ぐには、まず公衆衛生を徹底することが必要です。せきや鼻水が出る場合は自宅で療養し、外出したら何度も手洗いをする。咳が出る時はティッシュや袖で口を押さえ、絶対に手にウイルスを付着させないようにして下さい。ウイルスを周囲に撒き散らさないエチケットを徹底して欲しい。
マスクは感染者がウイルスを撒き散らさない点では有効という程度です。学校内で集団発生した場合は、具合が悪ければ早退する、教室内で座る位置を工夫したり、窓を開け換気をするなどで感染拡大を防ぎます。また、地域では自治体、医療機関、学校が情報を隠さずに共有し、連携した上で感染を拡大させないための予防対策を立てることが早急に必要です。
--ありがとうございました。(ききて、写真・武智)
□外岡立人氏プロフィール□
1944年北海道で生まれる。北大医学部卒。2年間ドイツ・マックス・プランク免疫生物学研究所に留学。市立小樽病院に小児科医として28年間勤務。昨年8月まで小樽市保健所長を務めた。作家としての顔も持ち、近著は日本で発生した鳥インフルエンザを封じ込めるため、国家という厚い壁と戦いながら奔走する青年医師の姿を、実際の発症事例や最新の研究を交えて描いた推理サスペンス「パンデミック追跡者」(リトル・ガリヴァー社刊)。夏に刊行予定の3巻で完結する。偶然にも豚インフルの発生と前後しての上梓だったため、結末が気にかかる。今月18日には豚インフルからの教訓を踏まえたパンデミックに関する解説書を幻冬舎から出版する予定。
写真・偶然にも新型インフルエンザと前後して発表された「パンデミック追跡者」(1巻、2巻)。リアルな話の展開に、ついノンフィクションなのではと錯覚してしまう


