人気や知名度において、道内を代表する"ふたつの山"には大きな隔たりがある。
行動展示が功を奏し「全国区」となった旭山動物園と、1951年、道内初の開園を果たした札幌市円山動物園。
「旭山」の昨年度の入園者は約222万人。一方、"老舗"は過去最低だった約49万人の2005年度以降、入園者を増加させているものの、昨年度も約70万人と後塵を拝している。
これまで"日が当たる"ことの少なかった「円山」は、さまざまな「ドキドキ体験」メニューを導入、工夫を凝らした施設もオープンさせ、"円山らしさ"を出しはじめた。
今年4月に園長に就いた酒井裕司氏(54)に、"円山復活"の秘策を聞いた。以下、酒井園長との一問一答。
――酒井園長は市役所に入られてから企画調整局や経済局などさまざまな部署を経験され、前職は市民まちづくり局企画課長でした。これまで円山動物園での勤務経験はないにもかかわらず、今年4月の異動で園長になりました。辞令が出た時の率直な感想は。
酒井 正直、まったく想定していませんでした。動物園という行き先があるんだということに驚愕しました。
――困惑されたということですか。
酒井 困惑です。前任の金澤(信治)園長さんがすごく活躍された方なので、そのあとは不安ですよ。果たして、この勢いを止めずにやっていけるんだろうか、と。今も続いてる不安です。
――2007年3月に「札幌市円山動物園基本構想」、翌年8月に「札幌市円山動物園基本計画」が策定されました。策定の目的はどのようなことだったのですか。
酒井 動物園は子どもたちが大好きな場所です。昭和の時代はとてもにぎわいました。私も子どもの頃はよく来ましたし、100万人(円山動物園の入園者のピークは1974年の124万人)を超えるお客様が訪れる施設でした。
その後、レジャーの多様化と社会情勢の変化から入園者は徐々に減りました。基本構想をつくる前の2005年度は入園者が最低の49万人に落ち込みました。旭山動物園が非常に新しい展示方法で脚光を浴びてくる中、円山動物園は施設や見た目の古さが顕在化し、入園者が開園以来最低の状態になるという事情がありました。
05年度に実施された行政監査では、職員の意識低下であるとか、トップマネジメントの欠如、「この先どうするんだ」といった動物園としての将来構想の不存在が指摘されました。
これではいけないということで、4年前に園長以下体制を改めました。市民が誇りを持って円山動物園を「わたしの動物園」と胸を張ることができる動物園をどのようにつくっていくのかを議論するため、06年度に「札幌市円山動物園リスタート委員会」を設置しました。委員には学識経験者、経済界からのご意見いただける方、市民の代表の方々を入れ、円山動物園の今後のあるべき姿をまとめました。07年3月にまとめた「基本構想」の基本理念は、「人と動物と環境の絆をつくる動物園」です。これに基づき、理念を具体的に実行するため、昨年8月に基本計画をまとめたのです。
――旭山動物園が全国的な人気を博している中、年間入場者や人気の面で大きく水をあけられた円山動物園の課題が浮き彫りになりました。園長就任前、一人の市民として見ていた円山動物園は、どのように映ったのですか。
酒井 私も7、8年前に旭山動物園の人気がすごいという時に行きました。飼育している動物は珍しくありませんが、生態をよく観察できる展示方法を見て、やり方次第で動物園は非常に面白くなるんだな、と感じました。
旭山動物園のそのような展示方法を円山動物園にどのように活かしていくのか。札幌市の職員として考えれば、真似するということにもならないだろうし、「円山らしさ」も出さなければならないと思っていました。一方で誰がどのようにして立て直すのだろうと、傍観者のように考えていました。金澤さんらが取り組んでいると聞いて、「彼らならできるかもしれない」という期待感はありました。当時は動物園で働くことになるとは考えていませんでしたので。
――基本計画では、3つの数値目標を掲げています。開園60周年を迎える11年度に入園者100万人。2005年度ベースで経常収入を倍増させることと、同じく支出を30%削減させることです。どのような取り組みから目標を達成させるのですか。
酒井 05年度に49万人だった年間入園者は、06年度と07年度に61万人に増えました。昨年度の目標だった70万人は、最終日の3月31日にぎりぎりでしたが70万0558人となり目標をクリアしました。順調に推移していると思います。
目標を達成した要因は、新しいコンセプトに基づいて施設を計画的に更新していることです。昨年度は「類人猿館」と「こども動物園」を改修し、「エゾシカ・オオカミ舎」がオープンしました。一昨年は、お客様の新しいニーズに対応できる商業施設「セブンイレブン」と「ネイチャーカフェ・アース」を園内に導入しています。
円山動物園の特徴的なソフトメニューは、飼育員自らが動物の生態などを説明することによってお客様とコミュニケーションを図る「みんなのドキドキ体験」です。これらの取り組みが功を奏し、入園者のベースが上がってきていると思っています。
今年度に限って言えば、昨年末にホッキョクグマのツインズ、5月2日にユキヒョウの赤ちゃんが生まれ、明るい話題が続きました。スターが生まれてくれたという、ラッキーな面も重なって、今年度の入園者数は非常に順調です。特にゴールデンウィークの期間は、前年比の4割増です。今年4月から6月までの入園者数も昨年度の3割増ですから、天候に恵まれれば、今年度は80万人を超えることも決して夢ではないと思っています。
それでも、その先の100万人は、まだまだハードルが高いと思います。我々がすべきことは、円山動物園に磨きをかけていくこと、基本となる展示動物や企業(ホッキョクグマの繁殖の際、札幌トヨペットが赤ちゃんを撮影する特殊カメラなどを寄付。コープさっぽろは、ホッキョクグマ応援プロジェクトを実施)と協力しながら充実させていくことです。
60周年記念は11年度なので、それに向けての企画立案を今年度から取り組み100万人を突破したいと考えています。
円山動物園では、市民の皆さんやいろいろな企業の皆さんから応援していただく体制がようやく出来上がりました。札幌トヨペットさんやコープさっぽろさんと一緒に環境メッセージを伝えながら、設備や動物の餌代を寄付をしていただいています。
動物の餌代を支援してもらう「アニマルファミリー制度」には、小さなお子さんもなけなしの小遣いを使って登録していただいています。市民が参加して動物園を支えていただく形が整った点からも今後は経常的な収支が改善されると思っています。
一方で、私どもは市民の税金で運営している動物園です。しっかりと、無駄のないように削れる経費を削り、支出を30%削減します。次の世代の子どもたちに動物園を残していくためには、収入と支出のバランスを図り、収支の均衡を目指さなければなりません。いろいろな委託事業もかなり整備、統合しました。園内の暖房施設は、寒い場所と暖かい場所で飼育する動物を分け、必要のない施設の暖房は止めるなどコストダウンに努めています。今のところ収支改善の進捗状況は計画の半分程度で、1億3000万円程の赤字削減になっている状況です。
応援していただいている企業が多いので、非常に助かっています。お客様も増えれば、入園料収入も増加します。寄付収入や市民ボランティアのベースが上がってくれば、収支も改善します。施設は老朽化していますから、建て直し、建て替えにあわせて、より効率的なエネルギーシステムを導入することも積極的にやっています。(ききて・久保)
以下、中編に続く。


