酒井裕司円山動物園長が明かす入園者100万人計画の秘策 中編

見るだけでなく、体験や感動できる動物展示「円山メソッド」の確立へ。

 

酒井裕司園長

写真・酒井裕司園長

 

 動物の行動展示が話題を呼び、全国各地から来園者が訪れる旭山動物園。

 一方、人気で劣る札幌市円山動物園には、これといった見所がないと誤解する向きもあるはず。ところが、円山は市民が「わたしの動物園」と胸を張れる感動・体験型の独自路線を目指している。

 多くの市民がゆっくりとくつろぎ、自然環境や命の尊さを学べる究極の動物園に生まれ変わる日も、そう遠くはなさそうだ。以下、前編に続く、酒井裕司園長のインタビュー。

 ――ホッキョクグマとユキヒョウのツインズが一般公開され、入園者が増えています。

 酒井 ゴールデンウィークの旭山動物園さんの入園者は12万人でした。うちは11万人です。期間中の8日間のうち、円山動物園が3日間入園者数で勝ったことは小さな喜びです。

 ――入園者の年代などに変化はありますか。

 酒井 客層に関して具体的なアンケートを実施しているわけではありませんが、20歳代、30歳代の若い女性が動物園に足を運んでいる姿が非常に目立つようになってきました。高齢者の方も増えていると思います。トレッキングというか、散歩というか、健康づくりのために園内を散策しながら、動物を見ることを楽しまれている気がします。私が自分の子どもを連れて来ていた頃と比べると、そうした年齢層が多くなっています。5年前にはほとんど見ることがなかったカップルも目立つようになり、ようやくデートコースになってきたかなと。

 ――入園者の客単価は。

 酒井 無料で入園できるのは中学生以下の子どもと、65歳以上の札幌市民です。高校生以上は1回の入場料が600円。1年間、何度でも入園できるお得な年間パスポートは1000円です。すべての入場者の平均単価は一人あたり550円程度です。

 2年前の調査では、園内の売店の客単価は平均で700円を少し上回る程度です。リーズナブル志向と言いますか、売店や食堂のメニューでも500円以下のものがよく売れる傾向があります。

 滞在時間の具体的な数字はありませんが、延びていると思います。展示方法やお客様への対応は飼育員の話をじっくり聞いて見ていただきたいという点を重視しています。ですから、ゆっくりとご覧いただける展示スペースも昔と比べると随分増え、そうした理由から滞留時間、滞在時間は延びていると思っています。

 サル山に隣接した展望レストハウスやエゾシカ・オオカミ舎もレストハウスのようになっています。要するに休日に「行くところ」というよりも「過ごすところ」といったコンセプトです。

 ――2011年度までに完成する施設は。

 酒井 今年度は(希少猛禽類を繁殖させ、鷹匠技術で飛行訓練を実施、自然に復帰させる)オオワシプログラムのための飛行訓練ケージと繁殖ケージがもうすぐ完成します。

 もうひとつの「エゾヒグマ館」は今年度から建設し、来年度のオープン。いま、園内には非常に高齢のメスのヒグマがいます。それとは別にオスのヒグマの雄大さとか力強さを見ていただける造りにするため、札幌市立大学デザイン学部の協力を得て、コンセプトメイクや基本設計を行っています。今年度は「新は虫類館」の設計も行っています。(現在の)「は虫類館」の南側に、新しいは虫類館をつくります。建設は10年度から始め、11年度にオープンする予定です。それ以降は、現在熱帯動物館で飼育している動物を中心に地域別のゾーンとなるアジア館、アフリカ館を建設する予定で検討していますが、今後の「新まちづくり計画」(11~14年度)の中でしっかりと位置付けをした上で進めていくことになります。

 ――「札幌市円山動物園基本計画」における動物の展示方法はどのようなものですか。

 酒井 動物園では「円山メソッド」と呼ばれる段階的な展示導入方式を計画しています。

 「円山メソッド」の優先順位で最も高いのは、「動物が快適に過ごしやすい環境づくり」です。具体的には「エゾシカ・オオカミ舎」のように自然に近い環境で動物を飼育することです。昨年改修したオランウータンのいる「類人猿館」の展示方法も、動物が過ごしやすい環境を目指しています。そういったことを実践しながら、次は「お客様がくつろぎ近くで見られる環境づくり」です。施設はそれに基づいて建設していますので、サル山の後ろのレストハウスや「エゾシカ・オオカミ舎」は良い環境のなかで動物がゆったりと過ごせ、お客様もゆっくりご覧いただけます。

 第3段階は、お客様が「通り過ぎるだけでなく体験・感動できる」ことです。円山動物園は47種類の「ドキドキ体験」メニューを、それぞれ飼育員たちが工夫を凝らして生み出しました。日々、お客様の反応を確認しながら進化させています。

 お客様とのコミュニケーションを図りながら、動物の素晴らしさ、環境の大切さを学んでいただきたい。そうした感動体験の先にあるのが第4段階の「環境や命の大切を学べる」ことです。命の大切さを学び、持ち帰っていただき、何かひとつでも「生活の中で変わった」「動物園に行って良かった」と思っていただける施設づくり、展示方法を確立するのが、「円山方式」と考えています。

 ――園内にはファーストフードショップ「ネイチャーカフェ・アース」やセブンイレブンがオープンしました。来園者の反応は。

 酒井 この数年間、特に今年はホッキョクグマブームで、何十年ぶりに来た、という方が数多くいます。私が園内を巡回してても、そういったお客様がセブンイレブンを見つけて喜びます。若い世代の方にしてみても、コンビニは「日常」です。わざわざ弁当を作らなくても、いろいろと必要な物を考えて心配しなくても気軽に動物園に来ることができるようになったと言われました。

 園内の滞在時間を延ばし、客単価を上げることは重要です。この二つを考えると、コンビニは非常に重要なファクターです。滞在時間が増えるほど、必要なものは増えます。タオルやティッシュもそうですが、小さいお子さんを連れたお母さんに喜ばれているのが、1回分の紙おむつであったり、粉ミルクを溶くお湯のサービスです。そういう部分でコンビニの出店効果が現れています。さらにコンビニのATMからお金を下ろすことで、オフィシャルショップやおみやげ屋さんなど園内の客単価が上がる効果も出ています。

 お洒落でおいしい「ネイチャーカフェ・アース」は、動物園の中でゆっくり過ごすことができるようになったと、評価している方が多いのではないでしょうか。ここではローテーブルや、子どもたちが座れる小さなキッズコーナーを用意するなど、さまざまな工夫をしてます。古くからある売店も刺激を受けて、変わりつつあります。相乗効果が出てきていると思います。

 ――ゾウは死亡し、2頭いたキリンは1頭になりました。ゴリラも"出張中"です。長年、動物園の"顔"となってきた動物は今後どうしますか。

 酒井 キリンは、メスの「タカヨ」が亡くなり「ユウマ」1頭です。ぜひとも早く嫁を見つけてやりたいと考えています。国内の園館に声掛けをして、なるべく早く実現できればと思っています。

 ローランドゴリラの「ゴン」は、繁殖を目的にして京都市動物園に「出張中」です。ゴリラの繁殖は難しく、良い結果はまだ出ていませんが、動物園にとって希少動物の繁殖は重要です。寂しいですが何とか出張の目的を達してほしいと考えています。

 ゾウに関しては、「ぜひ飼育してほしい」という声も多いのですが、希少動物です。群れで子どもを飼育するため、1頭やつがいでの飼育は好ましくありません。

 もしゾウを飼育するということになると、上野動物園のように群れでの飼育も考えなければなりません。そうなると、大規模な施設が必要になりますし、それに関わる飼育員も増やさなければなりません。ですから、施設を建設するイニシャルコストばかりでなく、餌代などのランニングコストの負担も大きくなります。動物園の一存では決められません。有識者などで構成する「市民動物園会議」で、じっくり議論した上でゾウをどうするのか、動物園の方針を定めたいと思っています。

 ――ゾウを新たに飼育する場合は、購入するのですか。

 酒井 ここにいる動物との交換か、購入するかのどちらかになります。動物の値段は有って無いようなもので、希少動物ほど今後は高くなっていくでしょう。また、どの国から購入するかで価格は変ります。しかし、動物の購入費よりも、施設の建て替え費用やランニングコストの方が高くなります。(ききて・久保)

 以下、後編に続く。

 

円山メソッド

図・「円山メソッド」(段階的展示導入方式)の解説

 

前編
http://www.hokkaido-365.com/feature/2009/07/post-311.html

後編
http://www.hokkaido-365.com/feature/2009/07/post-313.html

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