酒井裕司円山動物園長が明かす入園者100万人計画の秘策 後編

「教材を使った子どもたちは、動物を凝視するようになりました」

 

酒井園長

写真・酒井裕司園長とフサオマキザル

 

 35年前には年間124万人が訪れた札幌市円山動物園は、2005年度の入園者が過去最低の約49万人まで落ち込んだ。

 しかし、昨年度は目標の70万人をクリア。今年度も目標に掲げる80万人に向け、入園者数は順調に推移している。

 飼育員とのコミュニケーションが図れるさまざまなプログラムの導入や周辺環境に親しむことができる「円山動物園の森」の整備など、先例にとらわれない"円山らしさ"を重視したためだ。4月に就任した酒井裕司園長に今後の展望を聞いた。

  ――円山動物園の魅力や特徴について教えてください。

 酒井 私の個人的な考えも半分くらいは入りますが、一番は体験できる動物園ということです。職員や飼育員には素晴らしい人材が揃っています。コミュニケーションを通じてお客様に感動を体験していただける動物園というのが、最大の特徴であり、魅力だと思います。

 大都市・札幌の中心部に近いところにありながら、豊かな自然環境に恵まれている点も、円山動物園の特徴のひとつです。自然体験ゾーン「円山動物園の森」は、今年4月25日から公開しました。以前は倒木や剪定材を置き、市民には非公開のエリアでした。公開までに、有識者などで構成する「市民動物園会議」で議論を重ね、ボランティアの方が環境保全のために外来種を駆除しました。週末は一般の方に見ていただける「森の散策タイム」も行っております。そうしたプログラムを組むことができる豊かな環境も、円山動物園の大きな財産です。

 都心に近いのは、さまざまな団体やいろいろな年齢層の方々にとって使い手が良いことです。車で来ても時間が掛かりませんし、地下鉄に乗っても円山公園駅から歩いて15分程度です。円山動物園は、学童保育を実施する団体さん、ボランティア活動をしたいというたくさんの方、昨年度、希少動物の生態研究に協同で取り組む目的で「包括的な連携と協力に関する協定」を締結した酪農学園大など、さまざまな人たちと「環境」をベースにつながっています。これも円山動物園の特長です。

 ――子どもたちの動物園に対する興味、関心に変化はありますか。

 酒井 難しい質問ですが、子どもたちが動物を大好きなことは、以前と変っていないと思います。家に帰るとゲームをする点は、我々が子どもの頃と違います。しかし、子どもたちが動物を見て触って、感動するのはいつの時代も同じです。

 ひとつ宣伝させていただければ、円山動物園は子ども用の教材を作っています。昨年度末から小学校の低学年用と高学年用の教材を円山動物園のHPからダウンロードできるようにしました。

 先ほど事務所の外を見たら、藻岩小学校の子どもたちが来園しており、円山動物園の教材を使っていました。これまでの教材は、先生方がいろいろな工夫を凝らして用意していました。我々が教材を作ったのは、子どもたちにじっくり動物を観察してもらおうという趣旨です。教材を使った子どもたちは必然的に動物を凝視、観察するようになります。

 クイズ形式の教材だと、インターネットを調べたり、動物の横にある看板ばっかりを写して終わる傾向が見られます。それではせっかく動物園に来てもらった意味がありません。教材に載せている問題は、「オランウータンの手と足は、どちらが長いでしょう」など、実際に動物を見なければ答えが分からない内容です。動物園の教材を使うことで、子どもたちが動物を観察し、より一層好きになってもらえたらと考えています。

 ――飼育員の方は、どのように子どもたちと接していますか。

 酒井 飼育員は、子どもたちと直接関わるようになりました。飼育員に質問した子どもには、動物の写真が掲載されている「ハッピー・ズー・カード」(トレーディングカード)を渡しています。このカードを欲しがる子どもが積極的に質問をすることも珍しくありません。

 週末、動物園に来た学童保育や近所の児童会館の子どもたちが、ジャガイモなどを育てることのできる畑が園内に2カ所あります。畑で育てた作物は収穫後、動物に与えます。円山動物園は、このように子どもと関わる機会を増やしています。こうした取り組みの結果、子どもたちが動物を図鑑的に見るだけでなく、一層関心を持ってもらえるのでないか、と考えています。

 ――歴代園長の中には獣医の方もいました。酒井園長は獣医でありませんが、これまでの市役所勤務の経験から気付いた点、今後考えていることをお聞かせください。

 酒井 前園長の金澤さんも、その前の園長も獣医ではありません。獣医でない者が3代続けて園長になっています。

 私が勤務して思ったことは、動物園は特別な世界だが、やはり都市機能の一部であるとうことです。先ほど言いましたように、さまざまな人たちが学びに来たり、活動できる場所です。癒しを求めに来る人もいれば、ここでビジネスをしたい、教育の場として活用しようという方もいます。

 私の経験から踏まえると、動物園は、まちづくりの中での位置づけを明確にすべき施設と考えています。具体的に改善すべきところは、園内の表示関係です。かなり老朽化しているものもありますし、表示が統一されずバラバラになっています。無秩序と言ったら申し訳ないですけど、中には分かりにくいものもあるので、お客様の目線に立ってもう一度見直そうと考えています。

 特にお年寄りからは「どっちに行くの」、「あの看板では分かりにくい」と言われることもあります。札幌市立大学の知恵も借りて、お客様を行きたい場所に的確に案内誘導できるサイン計画をきちんとやろうと計画しています。

 また、コストが掛かるため、すぐには難しい問題ですが、園内交通の整備も重要です。円山動物園は南に行くに従って上り坂になります。人気のホッキョクグマを飼育している「世界の熊館」に行くまでは、勾配が続きます。今後増えていくお年寄りのことを考えても、整備が必要です。

 ――園長が一番好きな動物は。

 酒井 一番好きというか、非常に興味があって、いつも気にして見ている動物はフサオマキザルです。映画の「インディ・ジョーンズ」にも出ています。私は誰もいないところでフサオマキザルといつもニラメッコをしています。ずるい顔をしているところが好きなんです。頭は絶対いいって目で、いつも辺りを窺っています。

 フサオマキザルは、ワオキツネザルなどの原猿とは全く違います。ワオキツネザルの目はあまり物を考えていないように映ります。フサオマキザルは類人猿でこそありませんが、表情は本当に豊かです。

 動物園に来るお客様と一緒で、じっくりと見入ってしまうのはホッキョクグマです。動いている様子は本当に飽きません。

 ――ありがとうございました。(ききて・久保)

 

小学生

写真・円山動物園を見学する小学生

 

「ビーバー畑」

写真・子どもたちが農作物を育てる「ビーバー畑」。収穫後は動物の餌になる

 

 

前編
http://www.hokkaido-365.com/feature/2009/07/post-311.html

中編
http://www.hokkaido-365.com/feature/2009/07/post-312.html

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