課題山積、"害獣"エゾシカ 食材消費と捕獲で期待されるアイヌ民族の「知恵」 前編

農林業被害額と個体数は増加、捕獲は頭打ち。

 

エゾシカ

エゾシカは明治初期に大雪と乱獲で絶滅寸前まで激減したが、現在は分布
域を拡大させ、個体数も増加している。撮影地は越冬地の釧路市阿寒町

 

 10月26日、札幌市中央区にまでエゾシカが出没した。繁殖力が強く増える一方のエゾシカは深刻な農林業被害を及ぼしている。道は狩猟期間を延長したり、メスの捕獲を無制限にするなどの規制緩和策を進めているが、増加の勢いはいっこうに止まらない。

 今季も10月24日からエゾシカ猟が解禁となったものの、ハンターの減少で捕獲目標数を達成するのは難しい情勢だ。加えて食肉としての流通拡大もうまくいっていない。「アイヌ新法(仮称)」制定が視野に入る中、エゾシカ対策には狩猟民族である先住民族・アイヌの知恵に学ぶ必要があるのではないか。現状と問題点をリポートする。    

 増加を止めるにはメス7万6000頭の捕獲が必要

 現在、道は「エゾシカ保護管理計画」で、全道を東部(網走、釧路、根室、十勝支庁管内)、西部(石狩、空知、上川、留萌、宗谷、日高、胆振支庁管内)、南部(渡島、檜山、後志支庁管内)の3地域に分け、生息数などを把握している。これ自体、大変大雑把なエリア分けであるが、東部で26万頭、西部でもほぼ同数、南部でもかなり増加しているとされ、52万頭以上は生息していると見られている。

 農林業被害額は、1996年度にピークの50億円に達した。98年度に8万4000頭(メスは4万頭)を捕獲してから被害額は減少傾向が続いたが、ここ数年は増加して40億円のレベルになっているようだ。

 エゾシカによる被害は約半分が牧草。ほかはビート、水稲など。牧草は家畜の飼料になるため、農家は被害に遭った分、高い輸入飼料を購入しなければならなくなる。食べるものがなくなると樹皮まで食べ、樹木が枯れ死することになる。

 さて、捕獲対策の柱はハンターによる銃殺である。ところが、銃殺はハンターの高齢化や免許所有者の減少からうまく進んでいない。最近の捕獲数は7万8000頭ほどだ。道の自然環境課は「少なくとも1年間に7万6000頭(東部、西部地区で各3万8000頭)のメスを捕獲しないと、全体の個体数は減らないと考えている」と話す。

 対策の2つ目の柱は、主に東部地域の山間部と平野部の間に敷設された柵。300キロメートルに及ぶ柵は、ある程度の被害防止になっているはずだ。

 銃殺頭数の増加が期待できない現状で注目されているのが、前田一歩園財団(釧路市阿寒町)の罠捕獲だ。

 前田一歩園財団の罠捕獲について、道自然環境課は「多い年は罠によって600頭を捕獲している。用心深いエゾシカは、たやすく罠には近寄らない。だが、長いこと餌付けをしていたこともあり、警戒心を緩めたエゾシカは、仕掛けた罠に入るようだ」と説明する。

 注目されるアイヌ民族の罠捕獲

 アイヌの人たちが07年に設立させたウタリ共同養鹿加工組合(大川勝組合長)は、エゾシカを罠捕獲し、食肉を処理・加工する施設を建設、かなりの実績を上げている。大川組合長によると施設の総工費は1億円。国から3分の2が融資され、道も20分の1を拠出、残りは自己資金だという。組合では罠捕獲で常時60頭から100頭を養鹿し、処理・加工・流通の体制を整えている。

 大川組合長は「道は掛け声だけで、なかなかエゾシカの流通は拡大していかない。消費が拡大すれば、さらに罠捕獲の実績を上げることは可能なのに、たくさん捕獲してもさばけないのが実情だ」と嘆く。

 組合が用いる罠は網囲い。エゾシカの搾餌行動の生態を熟知するアイヌ民族独特の仕掛けだ。誘引するための餌を置き、網囲いに群れが入ると電波センサーによって囲いが閉じられる。その後は囲いの奥部に設置されている輸送用の檻にエゾシカを追い込む、というものだ。

 大川組合長が「道が掛け声だけ」と言う背景には、40億円もの被害が生じているにもかかわらず、被害対策の予算はせいぜい6000万円程度という実情があるためだ。

 もっとエゾシカを知ってもらおうと、さまざまなPRを続けているエゾシカ協会の井田宏之事務局長は「昔から日本人はエゾシカを食べていたのに、いったん絶滅の危機に瀕したため、保護政策がとられて食べる文化が廃れてしまった歴史がある。復活させるにはまだまだ時間がかかる」と消費が拡大しない理由を話す。

 自治体は総じて財政難。「本腰を入れたエゾシカ対策を」と唱えても、先立つ物が不足しているのが現状だ。となれば、狩猟民族・アイヌの知恵を借りるのが、懸命な策ではないか。アイヌ民族に罠免許を広く与えるための法改正、使用場所は公有地はもちろん、私有地の許可を緩やかにすることも必要だろう。

 新法がアイヌ民族の生活と地位向上を目標とする以上、こうした具体的項目の審議を早急に進めてもらいたいものだ。後編は、消費拡大に関してレポートする。(文・長縄)

 

 

後編
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