成獣の妊娠率が極めて高く、自然死亡率が非常に低いエゾシカは、個体数が増え続け、農林業被害を増大させている。道が掲げる今年度の捕獲目標は、全道でメス7万6000頭以上。これを達成しなければ、エゾシカは減らない。
現在、食肉として流通するエゾシカはせいぜい1万頭にすぎない。捕獲した大半は自家消費と廃棄処分。エゾシカ肉はフランス料理でこそ高級食材だが、国内ではまだまだ不人気。いかに消費拡大策を推進させるかは、行政も頭を悩ませる課題だ。後編は消費拡大の展望などをレポートする。
特定部位しか使われず、価格は高止まり
エゾシカの体重は50~60キロ。可食部分は多ければ約50キロになる。それでも、「美味しい部分のロースやもも肉は多くても20キロ」(食肉関係者)だ。それ以外の肉は使われず、流通しないため、勢い価格は高くなる。未利用部分を加工し、利用率をアップさせれば、流通価格は下がる。消費が拡大すれば、さらに価格もダウンするのが、市場経済の原則だ。
エゾシカ肉の消費量が増えない限り、エゾシカの捕獲数増加は望めず、農林業被害も収まらない。
道はこれまで農林業被害の対処療法として柵づくりや捕獲対策に取り組んできた。しかし、前編で報じたようにハンターによる銃殺捕獲が増えることは望めず、今後は罠捕獲に対する依存度は高まるはずだ。
罠捕獲を普及させる上では、アイヌの人たちが伝統的に培ってきた知恵を学ぶことが欠かせない。準備が進む「アイヌ新法(仮称)」には、狩猟民族の「特技」を生かす仕組みを盛り込む必要もあるだろう。効率的な罠捕獲を普及させるためには、行政の消費拡大策が急務。これからのエゾシカ対策は、ハード(柵敷設)からソフト(消費拡大のためのPR)への転換が不可欠になる。
料理方法の普及なくして望めぬ消費拡大
エゾシカ協会は、これまでに「エゾシカ料理試食会」や「エゾシカ料理まつり」などを開催し、料理方法や食材としてのシカ肉の魅力をPRしてきた。道が06年にエゾシカ衛生処理マニュアルを発表したことを受け、翌年、マニュアルに準拠した処理施設とそこで処理された食肉に対する「推奨」制度を設けた。
こうした取り組みが実り、札幌市内ではシカ肉を使った料理を提供するそば屋やスープカレー屋が約10店舗に増えているという。ただ食材となる部位の大半は、味の良いロースやもも肉に限られ、ほかの可食部分を利用するには加工製品の開発が重要となる。
協会は、食肉以外の部位である皮革と角の利用拡大のため、調査研究とPRを進めている。セーム皮は衣服、角は漢方薬としての利用促進に取り組んでいるが、やすやすとは進んでいないのが現状だ。
食品加工分野には、ウタリ共同養鹿加工組合が力を注ぎ、もみじ丼、3種類の味の缶詰、ジンギスカンを製造・販売している。エゾシカ肉に関心を持つ人たちに集まってもらい、試食会を開いたが、味は「いまいち」との反応が多かったという。
ところが加工製品と生肉を和食の調理人とフランス人シェフの2人に調理してもらったところ、いずれも評価は「美味しい」に一変。エゾシカ料理を広めるためには、旨みや食べやすさを引き出す調理方法が欠かせない。
組合でのエゾシカ肉の「利用率は約80%」(大川勝組合長)。利用率を上げるためにハムやジャーキー、ミンチなどの加工施設の建設を計画し、従来は捨てられていた内臓部分も「ホルモン」として利用することを検討している。
現在、組合で販売する生肉は、もも肉が200グラム3570円、ステーキは同1200円。大川組合長は、「消費さえ拡大できれば、いくらでも供給できる体制をつくることは可能」と話す。
大川組合長らの取り組みはまだ始まったばかり。アイヌの人たちの知恵を生かし、その生活と地位向上を図るためには、道がエゾシカ問題を足がかりとして積極的に連携することが望まれる。(文・長縄)


