「国民的ヒーロー」「国民の期待」「道民栄誉賞」とも呼ばれたボクシングWBC世界フライ級王者・内藤大助選手がその王座を失った。
相手は、さまざまな因縁をうたわれた亀田興毅選手だった。
ジャッジは、米国2人、ベルギー1人で、3人とも亀田の勝利と判定した。その差は4ポイント1人、6ポイント2人でこの通りだとするなら亀田選手の圧勝だ。さらに、内藤選手は顔面に受けたパンチで鼻とまぶた上が激しく腫れたから、かなり打たれた印象に見えたことは事実だ。
しかし、ボクシング大ファンの素人である私が言うならば、判定はドロー(引き分け)と言ってもおかしくはない。その根拠は、常に攻勢を保ったのは内藤選手で、亀田選手の戦法は出てくる相手に対してのカウンター戦法一点張りだったからだ。この試合のジャッジが日本人3人であれば、私とほとんど同じ評価を下したに違いない。
元WBCスーパーフライ級王者の徳山昌守氏は、スポーツニッポン紙のゲストとして観戦し、「私の採点では引き分け」と語っている。さらに、元WBA・WBC世界ミニマム級王者で東日本ボクシング協会会長の大橋秀行氏は「亀田は手数が少なく、一般ファンへもう一つアピールできなかったのではないか。今後は攻撃に磨きをかける必要がある」と、語った。
35歳の内藤選手が突進し、23歳の亀田選手が受けにまわった。それぞれのボクシングスタイルだと言えばそれまでだが、王者に挑戦者が挑むのが世界戦と思う日本人にしてみれば、そんなに守りを固めていては亀田は勝てないだろうと思ったのも無理は無い。
それにしても、スポーツ紙の見出しはもう少し考えるべきではないか。
「顔潰れた内藤」内藤の顔面破壊」はまだ少しは許されるにしても、「流血顔面ボッコボコ」に至っては、この言葉をスポーツシーンで使う者の気が知れない。「ボッコボコ」などというのは喧嘩を表現する言葉で、スポーツ用語ではない。
私の、長い間スポーツ界を見てきた故の持論だが、男性のスポーツ選手は「母と妻」によってつくられる。女性のスポーツ選手は「母と父」によってつくられる。
世界戦終了後、内藤選手の母・道子さんは「早くから、負けたら引退だよと言ってました。負けたらやらなくていい。ホッとしました」と語り、真弓夫人は「判定には納得がいかないけれど、お疲れさまと言いたい」と言い、引退については「悔しいから、またやってもらってもいいかな」と笑ったという。
ここに内藤大助選手を世界王者に成長させた秘訣がある。
例えば、スキージャンプやノックアウトされる恐怖心のあるスポーツの場合、母がもうやめてと言うのは構わないが妻や恋人が「もうやめたら・・・もういい加減にしたら・・・もう仕事に戻ったら・・・」と言い続けたとしたら、選手は続けられるものではない。母や父ならば、思い切り心配することが無上の激励になるのだが、妻や恋人の場合は違うのだ。
敗戦直後だけに真弓夫人の言葉は正面きって受け取れないものかもしれない。夫婦揃って落ち着いてからどのような結論を出すのかは分らないが、どのようなものであっても私たちは受け入れ、今後の応援は欠かすものではないことを伝えておきたいと思う。(文、スポーツライター・伊藤龍治)
伊藤 龍治の「スポーツ見聞録」
http://www.hokkaido-365.com/365column/itou/


