丈の長い草花が風にそよぎ、林に囲まれるようにひっそりと佇む庭園。四季折々の花が咲いては散るもようは、人の生死を象徴しているかのようだ。
現在、フジテレビ系列で毎週木曜日に放送中の「風のガーデン」は、「北の国から」などで知られる倉本聰氏(73)の脚本。3年ぶりに富良野を舞台にして書き下ろされたこのドラマは、突如、末期がんに襲われた主人公の麻酔医(中井貴一)とその家族の葛藤を刻んだ物語。主人公の家族が育てる英国式ガーデンは、タイトルとしてばかりでなく、ドラマが進行するにつれ重要な意味をもつ。
終末期医療を通じて、家族の絆を描いたこの作品は、自身も肝臓がんに冒されながら、主人公の父親を演じ、放送開始直前にこの世を去った俳優・緒方拳さん(享年71)の遺作となった。
風のガーデンの設計と植裁デザインをしたのは、旭川市郊外の米農家「上野ファーム」で、オープンガーデンやガーデンショップを営む上野砂由紀さん(33)。倉本氏本人から「ドラマのための庭を造ってほしい」と依頼され、新富良野プリンスホテルのピクニックガーデン内約600坪に約2年間を費やして庭園を造り上げた。
その上野さんが回想する。
「倉本先生とは全く接点がなく、お会いしたのは本当に偶然のことでした。2005年の夏、私が庭をお手伝いさせていただいた旭川市内のレストランで、たまたま倉本先生が食事していて、庭を見て上野ファームにいらっしゃったんです。その日に初めてお会いして庭を案内したのですが、その時はドラマの話ではなく、新富良野プリンスホテルのピクニックガーデンを変えたいのでアドバイスが欲しいという話でした。その後、倉本先生とホテル側と私とで話を進めていたのですが、ドラマにしようという話に急展開し、06年の春からドラマのための庭造りが始まりました」
写真:かつてはゴルフ場だった新富良野プリンスホテルのピクニックガーデンに造成された「風のガーデン」
「風のガーデンは英国式ガーデンというより、北海道の気候と風土にあった"北海道ガーデン"にしたいと思いました。北海道のダイナミックさと草木が風にそよぐ感じを出すため、2、3メートルある背の高い植物も植栽しました。季節で風景が変わる庭ということで、花が咲いた時にドラマのイメージ通りになるか、不安とプレシャーもありました。土地が広く、2万本以上の草花を植栽したのですが、その分、手直しも多く大変でした。花が咲くまでには最低1年かかるので、昨年は倉本先生も庭や花を1年間じっくり見ながら脚本を書き、今年の撮影になりました」
ドラマの舞台となっている「風のガーデン」はいまのところ一般公開はされていない。新富良野プリンスホテルは来春から公開する予定で、北海道の新たな名所として期待されている。
上野さんは札幌市内の大学を卒業後、服飾関係の会社に就職して3年間働いたが、ガーデニングを学ぶために退社、イギリスに留学した。帰国した01年から、実家の上野ファームで敷地内に英国風をベースにした「北海道ガーデン」の造成を始め、オープンガーデンとして公開している。
「花には人を引きつける引力があるんです」と、上野さんが話すように、当初、庭園の見学者は年間100人ほどだったが、口コミで拡がり、いまでは年間約3万人が訪れている。
上野ファームは1906年から続く米農家。十数年前から、田んぼのあぜ道や道路わきに花を植え、農村の景観を魅力的にしようと取り組んできた。上野さんが本格的な庭園を造る際も、「魅せる農業」を目指して家族総出で取り組んだそうだ。
写真:年間3万人が訪れる上野ファームの「北海道ガーデン」
「(風のガーデンを)造るときに、倉本先生からは『家族でやっているようなイングリッシュガーデン、季節で花が変わるもの』といったコンセプト以外、細かい注文はありませんでした。庭造りに関してはコミュニケーションを取りながら見守ってもらいました」(上野さん)。家族で協力して造りあげる上野ファームの庭園は、文字通り風のガーデンのモデルとなったようだ。
ドラマは上野ファームでのロケも行われ、亡くなった緒方さんをはじめ、主人公の子どもを演じる黒木メイサ(20)、神木隆之介(15)などが訪れた。
出演者にガーデニングの動作などを教えた上野さんは、「緒方さんとは挨拶を交わす程度で、口数が少なく寡黙な人でしたが、倉本先生と同じで、ものすごくオーラというか存在感のある方でした。元気そうにされていたので訃報を聞いてびっくりしました。ご病気だったということで、ドラマの内容自体と重なるところもあり、放送では緒方さんの一言一言に重みを感じ、より深く入り込んで見ています」と話す。
上野ファームのオープンガーデンとガーデンショップは9月で終了し、秋冬期は古い納屋を改装したカフェを営業している。「風のガーデン」の庭を中心とした写真展なども計画中だ。詳細は下記サイトを参照。(文・糸田)
写真:古い納屋を改装して作った「NAYA Cafe」
写真:カフェでは道産食材を使ったフードやスイーツを提供
写真:上野ファームで収穫した新米
写真:2002年からは苗販売も開始、年間で400種近い植物の苗が並ぶ

