規制緩和による増車、さらには景気後退による売り上げの低迷で札幌のタクシー業界は極寒の時代を迎えている。札幌交通圏(札幌、江別、石狩、北広島)の昨年の月平均実車率はわずかに31.4%。運転手の平均年収は約270万円。今年は250万円を下回る可能性すらあるという。
先月22日、低運賃と質の高いサービスを武器に全国でタクシー事業を展開する「エムケイ」が、札幌に進出した。同社は1年以内に450台まで増車する計画を打ち出している。
増車を計画するエムケイの新規参入を巡っては、地元66社と個人タクシー2団体が加盟する「札幌ハイヤー協会」(加藤欽也会長)が、北海道運輸局を相手取り、事業許可の取り消しを求める訴訟を起こしている。
前編で加藤会長は「運転手の生活を守るため、これ以上タクシーを増やすわけにはいかない」「下限割れ運賃での参入は、いたずらに過当競争を招く」など、エムケイ参入の反対理由を語った。
以下、前編に続く加藤会長との一問一答。
--協会が呼びかけている減車はいつから始まり、現在までにどのくらい減ったのか。また、札幌交通圏の適正な台数はどのくらいと考えているか。
加藤 協会は昨年9月、道運輸局に減車やサービス向上などを盛り込んだタクシー事業構想改善計画を提出した。それに基づいて昨年12月から自主的な減車を始め、今年3月までに計150台を減車した。自主的な減車の呼びかけは継続しているが、今の状態での減車は一通り終わったと考えている。札幌交通圏のタクシーは全体の3割、約2,000台は多いと見ている。季節によって差はあるが4,800台くらいでも、お客さんに迷惑を掛けずにやっていけると思う。しかし、各社の売り上げが落ち続けている中で、一律の減車を無理強いするようなことは現実的に難しい。減車と会社の経営は別の問題で、実際は自主的に2,000台を減らす事は不可能だ。
--2007年に行った値上げは客離れの一つの原因となった。初乗り550円のエムケイが参入したことで、先月21日には札幌北交ハイヤーが運賃の値下げを道運輸局に申請した。協会に所属する会社から運賃を見直そうとの声はあるか。
加藤 各社各様の考え方があるが、労働組合からは「いまの運賃で頑張ってほしい」「自分たちの労働が切り売りされるようなことは勘弁してほしい」という声がある。過去に苫小牧で全社一斉に下限運賃に落としたことことがあったが、落とした分の売り上げがそのまま減ってしまった。このことから安ければタクシーに乗るということではなく、必要な人しか乗らなくなったと考えられる。これから高齢化社会が進みどうなるかわからないが、その時は安いということだけで需要は増えなかった。
もし、札幌交通圏の全社がエムケイや札幌北交ハイヤーと同様に下限割れ運賃にした場合、間違いなく下げた分の売り上げがなくなる。今の状況では台数は増えていくので過当競争に拍車がかかるだろう。体力勝負となれば大きい会社しか残らず、長年、札幌交通圏でタクシー事業を支えてきた中小・零細会社が吸収されたり倒産したりして、結果的に大きな会社の寡占化につながると思う。
--競争の結果、弱い企業が淘汰されることは仕方がない。
加藤 商売なのでどのような業界でも、競争に打ち勝つ力のある会社が生き残るというのは当たり前のことだと思っている。ただ、協会としてできることを考えたときに、それぞれが自由に競争して会社が潰れたらそれでおしまいということでは役割を果たしていないと思っている。そういったことを見過ごすと結果的に事故が増えたり、お客さんに被害が出ることも考えられる。
競争原理は確かに必要だが、タクシー事業は1台に1人という原則があるので、頭数を減らしても利益が出るような構造ではない。そこを合理化するとなると運転手の賃金を大幅に下げるしかなくなるが、いくらなんでもこれ以上賃金を下げることはできないという思いはどの会社も持っている。
こうした話をすると、お客さんではなく既存の業者を大事にしようとしているように感じられるかもしれないが、長年、タクシーの歴史をつくってきたのは多くの中小・零細企業とそこに働く運転手であり、その生活を守るというのは協会の責務だ。中にはサービスや態度の悪い運転手がいるのも確かだが、それもひっくるめて、この厳しい状況の中で守ってやれるのは協会しかない。増車を計画するエムケイに対して何もしなければ、協会は何のためにあるんだということになる。お客さんのためにやるのは大前提だが、そこに働く運転手が一生懸命やれなければお客さんにはいいサービスはできないと考えている。
--札幌交通圏は2007年に国土交通省から特定特別監視地域に指定されたが、先月、エムケイが参入したように新規参入や増車に歯止めがかかったわけではない。今後、新規参入と増車を禁止する緊急調整地域に指定される可能性はあるのか。また、今国会に提出されたタクシー事業の特措法についての期待も伺いたい。
加藤 札幌交通圏は、売り上げの少なさでは緊急調整地域の指定要件をクリアしているので、指定してほしい。しかし、要件の中には事故が大幅に増加した地域などの基準がある。札幌交通圏では各社が事故防止に努めている結果、事故が大幅に減少しており、この要件は満たさない。当たり前のことだが、あえて事故を起こす業者はいないわけで、この基準自体がいかがなものかと思う。これ以上の増車を食い止めるため、札幌交通圏の運転手1万人とその家族3万人のために、国交省には緊急調整地域の指定を求めていきたい。特措法については具体的な通達や政令、省令などが出てこなければ、増車や新規参入に対してどのような歯止めになるのかはまだわからない。行政が減車を勧告できるなど、しっかりした需給調整をできる制度になることを期待したい。
--ありがとうございました。(ききて・糸田、写真・糸田)
■加藤欽也(かとうきんや) 1952年、札幌市生まれ。75年、日本大学卒業。79年、昭和交通株式会社に入社、91年から同社社長に就任。06年4月から札幌ハイヤー協会会長を務め、同年5月から北海道ハイヤー協会会長を兼任。


