斜陽都市から道内有数の観光都市に変貌した小樽。かつて開発か保存かで揺れた小樽運河は遊歩道が整備され、ガス灯がともる観光スポットに生まれ変わった。
運河、寿司、ガラス・オルゴールの「3点セット」を武器に観光都市として急成長してきた小樽だが、観光客の入り込みは1999年度の約973万人をピークに減少、昨年度は約714万人まで落ち込んだ。
観光客の大半が隣接する札幌に流れる通過型。観光不振に加え、今年は大手ホテルの倒産、老舗書店の自主廃業が続き、街全体に活気がない。低迷する小樽観光は巻き返しができるのか。今年5月、全国公募で小樽観光協会事務局長に選出された木立孝志さん(58)に聞いた。
今では、東アジアを中心とした外国人旅行客にも人気の小樽だが、観光地として脚光を浴び始めたのは、運河整備が終了した96年以降。観光都市としての歴史は浅い。
にわか観光都市となった小樽について、木立さんは「都市整備は運河やその周辺に重点が置かれ、市民が暮らしやすいまちづくりという視点が欠けていた」と指摘する。
「プライドが高いというのでしょうか、市民の中には観光地となった小樽を歓迎しない人もいる。運河は観光客のものになってしまい、ほとんどの市民は足を向けない」
一方、観光客の多くは、運河周辺を見物した後、土産物を買って帰って行く。看板だけ見て素通りしていくようなものだから、市民と観光客が触れ合う機会は少ない。
しかし、名所、旧跡を訪ねることだけが旅の味わいではない。
「街の人々がどのように暮らし、何を食べているか。そこに生きる人の息づかいを知ることで本当の魅力が見えてくるのではないか」
木立さんは、観光客が気取らない普段の街の様子や人々の暮らしを知る場所として、ヨーロッパの古都にある「広場」を例に挙げる。市庁舎や聖堂、市場、カフェなどさまざまな都市機能が集積する広場には、市民が情報や憩いを求めて集まる日常的な光景が展開される。だから、広場に行けばその街の歴史や文化、人々の生きた暮らしを肌で感じることができ、それが旅の味わいを深める。
小樽の「広場」に当たるのは、商店街を核とする中心市街地だろう。しかし、そこは人口減や高齢化で空洞化が進み、シャッターを閉ざす店も多い。中心市街地の賑わいを示す、歩行者通行量はこの10年間で半数に激減しており、平日、休日とも人影はまばらだ。
それでも中心市街地には、これまで見過ごされてきた観光資源が眠っている。その一つが「路地裏」だ。商店街を少し外れると、古い下見板張りの木造家屋のある路地裏にぶつかり、懐かしい風景が旅情をかきたてる。
「観光客の求めるものも変わってきており、最近は路地裏目当てでやってくる人もいる。街が暮らしやすくなり、たくさんの市民が歩く街になれば、観光客をひきつけることができる。路地のように運河だけではない小樽の魅力を知ってもらえる」
市民がより良く暮らし、観光客を迎える。観光客が、まるで故郷に帰ってきたような安らぎを感じる街になれば、立ち寄るだけの街から滞在したい街へと変わることができる。それを実現させる原動力は、市民一人一人が街の将来を考え行動するパワーだと、木立さんは言う。
「小樽のすごいところは、街に思い入れのある人が多いことです。街を元気にしようと喫茶店巡りのスタンプラリーを企画する喫茶店のママさんなど、色々な人が実際に行動を起こしている。だから、ほかの街に比べてイベントが多い。一人一人の生き方や考え方は違うが、この街を何とかしたいという気持ちはみな同じです」
中心市街地に賑わいを取り戻すには、空き店舗の解消や市街地居住の促進といった環境整備が必要だが、行政や経済界の手だけに頼らず、「そうした人たちの思いや意見を一つにまとめていけば、大きな力になるし、それを取りまとめていきたい」と木立さんは話している。(文、写真・武智)
[プロフィール]
1950年、小樽市に生まれる。小樽商科大学卒業後、現在、三越伊勢丹ホールディングスの支援で経営再建中の百貨店「丸井今井」に入社。札幌本店の総務部長、関連ビル管理会社社長など要職を歴任。北海道百貨店協会の事務局長も務めた。50歳を過ぎたころから定年後の第二の人生を真剣に考え始め、今年3月に早期退職。丸井時代は拓銀破綻後の経営危機、創業者一族の暴走などさまざまな難題から老舗百貨店を救うため奔走、「丸井時代はやりたいことをさせてもらい、仕事に悔いはない」と語る。「小樽のために何かしたい」と、小樽観光協会事務局長の公募に手を挙げ、88人の中から選ばれた。長年、小樽に暮らしているが、札幌勤務が長く旅行経験も豊富。小樽を冷静な旅行者の目で見つめられることが強み。老舗百貨店の管理職から観光事業を影で支える裏方への転進に、周囲の期待は大きい。5月15日の着任から2カ月。今月24日から26日まで開催される「おたる潮まつり」の準備に忙しい。「肉体労働の日々です」と笑顔を見せた。
写真・小樽を代表する観光スポット「小樽運河」

