水道管水抜き栓の技術を応用、寒冷地用の杖

ワンタッチで滑り止めのツメが飛び出す「転ばぬ先の杖」。

 

小泉康生社長

写真・寒冷地用の杖を手にする小泉康生社長

 

 冬の到来とともに、北国の住人を悩ませるのがツルツル路面の出現だ。歩行者が足を滑らせて転倒する姿は北海道の冬の風物詩ともいえよう。そうした中、お年寄りや障害者が安全に冬道を歩けるように開発された寒冷地用の杖が発売以来、隠れたヒット商品となっている。

 手元のレバーを人差し指で持ち上げるだけのワンタッチで、杖の底から滑り止めのツメが飛び出す、まさに「転ばぬ先の杖」。開発したのは小樽市の杖製造・販売「コイズミ」(長橋3)。発明のヒントは、寒冷地・北海道ならではの水道管の水抜き栓の技術だった。

 従来の杖は、冬になると、先端に専用のツメをボルトで取り付けるタイプのものしかなく、雪道を歩く時は、指でツメを立て、建物に入ったときはツメを折りたたまなければならない。操作には結構な力が必要でお年寄りには辛い作業だった。

 だが、コイズミの杖は、アルミ製で軽く、持ち手の部分に付いている白いレバーを人差し指で操作するだけでツメの出し入れが自在。指先に力の入らないお年寄りでも簡単に扱える。

 この杖は、小泉康生社長の父・紀生さんが考案した。紀生さんは、室蘭工大を卒業後、小樽市の寒冷地向け給水栓メーカーに就職。技術者として水道管の水抜き栓の開発に取り組んできた。水抜き栓の技術を応用した寒冷地用の杖は、世界初のアイデア商品として特許を取得。昨年度の社団法人発明協会の「北海道地方発明表彰」で発明奨励賞も受賞している。

 給水栓メーカーの技術者だった紀生さんが杖の製造販売を「起業」したのは、会社の先輩が病のため、体の自由が利かず杖を使うようになったことがきっかけ。ツメの取り外しに苦労している姿を見て、「簡単に使える杖はないものか」と思案していた。そんな時、頭に浮かんだのが、長年研究してきた水抜き栓の仕組みを杖に応用するアイデアだった。

 2006年に資本金300万円で会社を設立。口コミなどで広がり、年間1000本を売り上げている。今年の春、紀生さんは他界したが、社長を継いだ康生さんと家族を中心に営業を行っている。11月が製造のピークで、札幌市内の百貨店、福祉用具店を中心に販売しているが、最近は帯広、旭川などのほか青森、秋田など道外にも販路を広げている。

 商品は定番の「杖流(じょうりゅう)社会」(税込み7875円)、花などの美しいデザインを散らした「愛杖(あいじょう)物語」(同1万0500円)、「人生劇杖(じんせいげきじょう)」(同1万5750円~)の3タイプ。「人生劇杖」は「おかあさんありがとう」などと好きな言葉や写真などを張り付けて、「世界に一つしかない」オリジナルの杖を作ることができ、贈答用としても人気がある。

 杖は「老けて見られる」と敬遠するお年寄りも多いが、工夫を凝らしたデザインやネーミングには、お年寄りに自信を持って杖を使ってもらいたい、という紀生さんの思いが込められている。

 低価格の杖が多く出回る中、価格は高めだが、すべて手作り。発売以来、一度もクレームがなく、安全性は折り紙付き。どうすれば、冬道の安全を守れるのかーー。そんな研究心が生んだ寒冷地用の杖は、お年寄りの安全と安心を支え生活の質を向上させている。

 「爆発的に売れるものではありませんが、高齢者や障害を持つ人の安全と命を守るためにも、販路を開拓していきたいですね」と康生さんは意欲を見せる。

 杖の上手な選び方は、身長÷2+3センチが目安。購入を希望する人から直接注文も受け付けている。問い合わせはコイズミ(電話0134―33―0750)へ。(文、写真・武智)

 

杖を製造する工房

写真・工房では杖の製造がピークを迎えている

 

従来の杖

写真・従来の取り付け式のツメ

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